「お風呂場の様子はどうですかー?」
大きな声で大工の堀さんがやってきます。
この界隈の家の修理や手直しは、ほとんど掘さんがやってくれています。
大事にすれば、ながーくつかえるからね。
「何? 何? なにが聞きたいの?」
せっかちな堀さんにおされて、
鉛筆の話を。
「そりゃそうよ。もう現場、現場、行くときはどこでも一緒。
見積もりなんかで線ひく時は、やっぱり見た目もいいシャーペンつかうけど、
そりゃあ、その時だけ」
見た目ですか?
鉛筆もいいじゃないですか?
「普通のならいいけど、僕の持っとるのはこれだから」
ポケットに手を突っ込んで、
はずかしそうにひらいた手には、使い古され短くなった鉛筆たちがころん。
「やっぱりこれから仕事頼む人が、
こんなチビた鉛筆つかってる人で大丈夫やろか
って思われないようにさ、、、
でも、現場じゃこれ。
しっかり仕事しよるよ、こいつは。
木なんかに線ひくときも、傷つけんしね。
何より気軽にどんどん使える!」
そういう短いのが使いやすいんですか?
「いやいや。もちろん自分では、長いのから使い始めるよ。
昔は耳にかけてやっとったな。
でも最近じゃ老眼鏡かけてやるからさ、眼鏡にじゃまされて、ようきまらん。
いろんなポケットに入れてるよ。どこさぐっても出るように。
だから短いのがええのんかな?
あと、よう現場なんか行くと、みんな鉛筆を祖末にほっていくんやわ。
短いのなんかだと、特に。
そういうのを拾っといて、ポケットやいろんな道具箱に入れとくと、
便利なんや。
どこいったって、すっとでるやろ。
で、最後まで使い切る。
孫なんかのさ、短くなって捨てようとしてるやつもこそっと拝借。
現場で仕事して、最後は木屑と一緒になって最後を迎えるのよ」
なんかちょっとロマンチックですね、、、
堀さんは、はずかしそうに頭かきかき。
「そんなことよりお風呂! どう?」
「ここは、パイプはしっとんなー、、、
ふんふん、なるほど」
いそがしくちっちゃい鉛筆はしらせ、早口な堀さんはうれしそうに次の仕事へ。
還暦おめでとう。
最後まで使われて君は幸せものですね。